経済産業省 石井芳明氏 x One JAPAN 対談

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濱松:今年もNext Innovator育成プログラム「始動」の募集が始まりましたね。石井さんは、国のベンチャー政策の牽引役として、この始動プログラムをはじめ、さまざまなプロジェクトのマネジメントをされていて、それだけでなく自らもプレイヤーとして動いていらっしゃいます。

常にお忙しいのに、One JAPANをいつも応援していただき、本当にありがとうございます。僕が初めてお会いした時も、お話しさせてくださいとお願いしたところ、すぐにお時間をくださって。

石井さん:そうでしたね。昨年の「始動」キックオフの時に初めてお会いしましたね。立ち話で、今度話を聞かせてね、と言ったら、迷わず直ぐに訪ねて来てくれた。

ああいう場では名刺交換してそのままのケースが多いから、僕はそこをすごく評価しました。「この人は行動できる人だな」と思いました。実はその時、仕事が立て込んでいてヘトヘトだったんだけど、無理して時間を作って良かったと思いました(笑)。

One JAPANのチャレンジに共感

もちろん、実際に話を聞いて共感した部分も大きかった。今は違いますが、以前は、役所の中で、新しい分野のベンチャーを応援すること自体がベンチャー(冒険)で、チャレンジングなことでした。規模の大きい既存産業や政治的要請の強い中小企業の支援がメジャーな時代が続いていましたから。

先を見たら絶対意義があると分かっていても、予算がつかない、人員がつかない、いろんなプレッシャーがかかる・・。そういう意味で、濱松さんやOne JAPANの皆さんが会社の中で、新しいことにチャレンジしてこと、ときに逆境に立ち向かいながら頑張っていることに、すごく共感ができるのです。私もまさに似たような環境で、ベンチャー支援を続けてきました。

また、政策的な話でいうと、IOT、ビッグデータ、AIなど先端技術の進展で第4次産業革命がどんどん進んでおり、イノベーションが国の産業や豊かさを決定づける時代。その中で日本においては、大企業が変わることが大事です。特に、自前主義から脱却してオープンイノベーションを進めていくことが絶対に必要。だから、One JAPANにおける大企業の若手の新しいチャレンジは意義があると考えています。

もちろん、今、経産省もいろいろな政策を打っています。例えば、イノベーションに関して先駆的な取組を行っている日本の大企業経営者をメンバーとした「イノベーション100委員会」。社長自らが革新の取り組みを宣言しています。「効率と創造、2階建ての経営」、「存分に試行錯誤できる環境の整備」、「組織の壁を越えた協働」などの経営者の行動指針を普及する運動をしています。

アジア最大規模のカンファレンス「イノベーションリーダーズサミット(ILS)」では「場」をつくっています。オープンイノベーションの推進には、経営幹部をはじめ、いろいろな人の巻き込みが大事。そのためには、直接人に出会い、空気を感じてもらうことが一番。若手の方々には、ぜひ上司や管理部門の人を連れてきてくださいねと言っています。

そして、次世代イノベーターの創出を目指す国家プロジェクト「始動」プログラム。

これらの政策の方向性は、One JAPANの方向性と一致していると思います。企業の若手が自ら手を上げて自発的に進めていっているのが、本当にいいなと思っています。補助金を付けたり、規制や制度でむりやり引っ張っていくのでは真に運動を盛り上げることはできませんので。

濱松:たしかに、「始動」とOne JAPANは親和性があると周りのメンバーともよく話しています。流れにもよるのですが、始動がなければOne JAPANがなかった可能性もあるかもしれない。One JAPANを一緒に立ち上げた山本くんとは、始動に一緒に参加したことで距離がさらに近くなりました。

僕は、One JAPANがきっかけで自発的に手を挙げる人が増えればいいと思っています。One JAPANも石井さんが進められている政策も、言ってみれば「箱」というか「仕組み」に過ぎない。でもその箱にどれだけ魂を込められるかなんですよね。

石井さん:そうそう。本当にそうですよね。信念を持って動いてくださる人が、どれくらい出るかが大事。

どういう人がキーパーソンか、そこを断然重視している

石井さん:ところで、山本さんは、東日本大震災を被災地の石巻で経験して、それがきっかけでいろいろ変わったんですよね。

山本:そうですね。死を覚悟した経験から、これで人生終わるのはもったいなあって。O-DEN(NTTグループの有志団体)を始めたのも、今死んで後悔したくないから。「なんでできるの?」ってよく聞かれるんですけど、人生もっとやりたいことやったほうがいいよって言っています。
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石井さん
:ベンチャーと付き合っていると、震災を機にビジネスに関する考え方を変えた人が多いですね。2000年代のはじめは、やっぱりお金を儲けようというベンチャーが多かったけど、最近は、社会課題の解決、世の中のためになることを目的とした人たちがものすごく増えたと感じます。志が高い経営者のもとに優秀な人材が集まる、良い循環ができはじめていると思います。

濱松:確かにそういう話を聞きますね。石井さんから見てもそうなんですね?

石井さん:はい、明確に。僕だけでなく、ベンチャーキャピタルの人たちに聞いても、経営者のレベルが上がっているし、志が高くなっているという話が出ます。そして、それはベンチャーだけでなく大企業の世界でも起こっている。山本さんみたいな人が、メンバーにいることはすごくいいと思います。

それから、もう一人の共同発起人の大川さんも、エッジが効いていて面白いですね。印象に残っているのが「僕はスキーのために仕事しています」と言い切るところ。人間としての魅力を感じます。僕もサーフィンするので、気持ちが分かるな。

一同:え!!

石井さん:時々しか海に入れないので、本当にいい波が入ってきたときって、仕事を少し保留して波乗りしたいって思います。でも、どうしても仕事優先になることも多く、ストレスになったりしていますね。だから大川さんの話を聞くと共感できるんですよね。

濱松:そう、One JAPANでは冬になると大川さんが土日捕まらない問題が・・(笑)

石井さん:いいじゃないですか(笑)。One JAPANって共同発起人3人のキャラクターが面白いから、いいプロジェクトになると確信していました。実際、オペレーションもいい感じで回していて、さすがだなあと思います。

施策の実施もそうですが、企業やベンチャー、プロジェクトも、どういう人がキーパーソンかということが、うまくいくかどうかを決めると思っています。また、その人たちが、どのように繋がっているか、どのようなモチベーションで動いているかがすごく大事。

僕らも新しいプロジェクト考える時は、組織図とともに、具体的な人の名前を見ます。この人だったら組織図的には少しずれているけど頼めるかなとか、人が合ってないと無理できないとか。

10年経ったら日本を変える人たちが必ず出てくる、政府主導の人材育成プログラム

濱松:今年度も石井さんが中心となって進める、イノベーションを起こす人材を育成するためのプログラム「始動」の募集が始まりましたね。僕と山本くんは二期生で、今年度の募集が第三期になります。

石井さん:今年も志の高いチャレンジャーたちにどんどん集まって欲しいですね。

「始動」のような人材育成プログラムは、すぐには結果が出ない類のものですが、10年20年経った時に絶対に大きな変化になっていると思います。

実は、10年以上前に、「始動」の前身にあたるプログラムがありました。ベンチャーキャピタルで次世代を担う人を集めてトレーニングし、シリコンバレーや東海岸に派遣する事業を実施したのです。しかし、短期的な成果が見えずに、予算が切られてしまいました。

しかし、10年以上たって何が起きているかというと、今のベンチャーキャピタル業界を担っている中心人物たちがそこから出てきているのです。トップキャピタリストとして業界をリードしてくださっている日本ベンチャーキャピタル協会会長の仮屋薗聡一さんも、「経産省のあのプロジェクトで視座が高くなった。だから、今の僕の投資スタイルがある」と言ってくださっています。

「始動」も、中長期で成果を出すプロジェクトだと思っています。10年経ったら日本を変える人たちがこの中から必ず何人か出ている。総理イニシアチブとして、この事業が始まったのは、そういう人材への投資を政府としてもやらないといけないという姿勢の表明です。ぜひOne JAPANが、始動と連携する機会をさらにつくって欲しいですね。

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濱松:One JAPANの第三回総会では、始動に参加したメンバーが約10名集まりましたが、石井先生の生徒たちの卒業式みたいになっていましたね(笑)。始動ファミリーがすでにあれだけOne JAPANの中にいる。さらにどんどん増えればいいですね。

石井さん:あれは、うれしかったです。第一期、第二期の卒業生の繋がり、頼もしいです。

始動の繋がりの強さは、構成メンバーのキャラにも依存していると思っています。実は、始動は当初、定員100人で始めようとしたのです。審査委員会で審査して100人を選ぶ。でも、審査段階で上位の優良応募者以外にも、キラリと光る面白い人たちがたくさんいることが分かりました。

そこで、「ワイルドカード」を作ろう、ということになって、総合点は高くなくても、飛び抜けて特徴のある人たち、特定分野の得点が極端に高い人たちを20人追加し、120人採択したのです。結果、その20人が、自らのプロジェクトを大きく伸ばしたり、他の人をうまく巻き込んで何か始めたりと全体に素晴らしい影響をもたらしました。多様性のある人たちの繋がりが、始動メンバーの強さになっています。ワイルドカードで入ってきた人が誰か?それはご想像にお任せします(笑)。

※「始動 Next Innovator 2017」は、6月12日(月)正午まで応募を受け付けています。

http://sido2017.com

大企業に超共通する「あるある」

山本:大企業がイノベーティブであるために必要なことは何でしょうか?「大企業あるある」の問題点が多いと思いますが。

石井さん:イノベーションを阻む課題としては、成功モデルから脱却できない、短期業績に注力しすぎる、現場の声が上まで上がらない、内部リソースにこだわり過ぎるなど。これらの課題は、多分One JAPANのメンバーも日頃から問題意識を持っている、フラストレーションを感じていることと重なると思います。

こういう問題は会社の仕組みに根ざすものだから、やはりトップの人が宣言してアクションを起こすべきと提言しています。「イノベーション100委員会」のレポートに行動指針と具体例が書かれているのですが、トップの発信と仕組みづくりが重要です。

特に、現在の主力事業と新しい事業の取り組みを明確に分ける「2階建ての経営」がポイント。新規事業を会社の発展のため柱と位置づけ、意思決定、予算や人員の配分、事業評価において別の判断基準で実施するべきです。成功確率が低いので試行錯誤を歓迎することや、事業化までに時間がかかることも、あらかじめルール付けのもとで許容することが必要です。

One JAPANのメンバーも、「イノベーション100委員会」のレポートを自社での上司や経営陣の説得材料に使ってもらえればと思っています。

※「イノベーション100委員会レポート」

http://www.meti.go.jp/press/2015/02/20160226002/20160226002-1.pdf

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大企業とベンチャーの付き合い方、知っておくべきこと

石井さん:あと大事なのは、オープンイノベーション。もちろん、オープンな戦略をとる部分とそうでない部分は両方あっていいと思います。例えば、50年間研究開発を続けて実現したという炭素繊維などは、外部との連携やベンチャーではできないことだし、大企業のすごさでもある。そういう部分は残しつつも、別の部分は徹底的にオープンイノベーションで取り組む、そんな戦略が必要と思います。

ベンチャーとの連携では、共同事業、調達、資本提携、M&Aなど色々な形がありますが、今般、経済産業省で、ベンチャーと大企業が提携するときの手引書を作りました。

※「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き」

www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/venture/tebiki.pdf

 

山本:いいですね。ベンチャーと一緒にやっている事例はあっても、うまく世の中に発信できてないと感じています。大企業のリソースをうまく活用してもらって新しいサービスを出すということが、本業での今年の目標です。

石井さん:手引き書では、まず、心構えとして相手のことをよく知ることが大事と書いています。大企業では、ベンチャーとの交渉にあたり「持ち帰り検討します」って平気で1~2ヶ月時間をかけたりしますが、ベンチャーは、苦労して調達した資金が1ヶ月ごとにどんどんなくなっていく。また、技術者中心の会社だとかっこいいプレゼンもできなかったりします。逆に、ベンチャー側も大企業の基本的な意思決定のプロセスをちゃんと理解しておかないと、その場で意気投合してもあとで慌ててしまうことになります。相手のことを理解する、相手サイドの経験がある人を身内に持っておくことが必要です。

投資の6~7割はダメになる。でもそこに投資するリスクマネーが日本にも必要

また、大企業側で、自社のどの事業分野をオープンイノベーションで行くのか、どれくらいのリソースを割くのか、戦略を明確にすることが大事です。

例えば、ベンチャーに投資するのであれば、ここからここまでの事業分野の範囲では、ポートフォリオ投資で多くのことを手がけ、少なくとも5年間は成果についてうるさく言わないとか。

実際にベンチャーキャピタルの投資は、一流VCかそうでないかを問わず、1割がホームラン、2~3割がヒットで、ホームラン案件のリターンの大きさで収益を上げるモデルです。一流のキャピタリストでも先端技術分野であればどの投資がホームランになるかは分からない。そして、悪い案件から先に結果が出て、成功案件は時間がかかる。ですから、1,2年で結果を求めても成果は出ていないし、短期的に成果が出ていないという理由で撤退するようではホームランは出ない。そのあたりをしっかり考えて戦略を立てることが大事です。

AIや医療分野など、海外のハイテクスタートアップは数百億のお金を集め、トップクラスの人材を世界中から調達して技術開発を進め、それを大企業がどんどんM&Aしていくというサイクルが回っています。それにどう対抗していくか、リスクマネーの供給の在り方を考えなければならない。

人材の流動化がイノベーションエコシステムの鍵

濱松:人材の面ではどうですか。大企業の中で起業家マインドを持ってやっていくという選択肢があるとしたら、大事なポイントは何でしょうか?

石井さん:イノベーションを創出するエコシステムを確立する上で重要なことは、人材の流動化です。カリフォルニア大学のマーチン・ケニー教授の分析によると、シリコンバレーの最も重要な成功要因は、人材の流動化でできているネットワーク。大学教授が企業やベンチャーに出て、また大学に戻る、大企業の人がスピンオフしてベンチャーを創業する、起業家が大企業のトップマネジメントチームに入る、というような人材の流動化で、ダイナミックに知を共有する仕組みがあります。

日本では一気にはできないので、交流の機会を増やすことが必要。兼業・副業でもいいですし、ローンディールの原田未来さんが取り組んでいるように、出向という仕組みでも良いと思います。人材が動くことができる仕組みを広げ、その中で様々なプレイヤーの知や経験が活かされる。そのように変わらなければ、日本はイノベーション大国になれないと思います。

 

濱松:最後に、今後One JAPANに期待することは何ですか?石井さんからOne JAPANへの要望・リクエストがあれば教えてください。

石井さん:日本では大企業が経済をリードしてきました。しかし、間違いなく、今、日本の大企業は大きく変わらなければならない時期になっていると思います。そのために、企業を変える人材がたくさん出ることが大切。

だからこそ、One JAPANには「継続」と「拡大」を期待しています。むずかしいことに遭遇してもしっかりと活動を継続して欲しいし、この先、できるだけ多くの人、企業を巻き込んで欲しい。One JAPANの方向性は、世の中の流れとニーズに合致しているのです。我々としても応援していきたいと考えています。

濱松:石井さんがこのように応援してくださっていることを、改めて認識できました。自覚を持って動かないといけないと身が引き締まる思いです。今日は本当にお忙しい中、ありがとうございました。

(参考)

大企業の若手有志がめざす企業革新の熱気 ~One JAPANの挑戦とは?(東洋経済ONLINE)

http://toyokeizai.net/articles/-/151555

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