-正確性を捨て、代わりに武器となるもの-

早稲田ビジネススクール・入山章栄先生×One JAPAN 対談 前編

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

☑️ 人の動きの厚みが足りない日本

☑️ 不確実な世の中で武器となるもの

☑️ 主観でまず第一歩を踏み出せ

濱松: 昨年12月のOne JAPANの第二回全体交流会では、本当に素晴らしいお話をありがとうございました。
その後のアンケートなどでも、入山先生のお話に特に感動したという声が多く寄せられました。
経産省主催のNextイノベーター育成プログラム「始動」で先生とご縁あってお会いしてから、このようにOne JAPANを応援してくださってとても光栄です。

入山先生: そう。お会いしたのは「始動」の時でしたね。でも実は僕、濱松君に会う前からOne Panasonicにすごく興味があったんですよ

僕は10年間アメリカで経営学の研究・教育に携わり、2013年に日本に帰ってきたのですが、帰国してからいろんな人のお話を伺っている中で、どうも気になることがあって

 それは、日本では人が動いていないということ。国を超えて、業界や会社を超えてというレベルだけでなく、同じ会社の中でさえ人がつながっていないようだと。

 ただ同時に、どうも一部の会社では、どうにかしようと頑張る人も出てきていると聞いたんです。最初に聞いたのはソニーだった。若手がインフォーマルに横でつながるという動きが出てきているというのを聞いて、僕は経営学的な知見から素晴らしいことだと思って

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

「人の動きの厚み」が圧倒的に足りない

 実は僕は経営学でそういうことを研究してたんです。インドや台湾などは今すごい勢いでハイテク産業が進んできていますけど、あれは一朝一夕にできたわけではなくて

 まずシリコンバレーに人がすごい動いたんです。台湾などは昔はあまり経済成長しなかったこともあり、アメリカで学位とってなんぼみたいなカルチャーがあり。例えばスタンフォードのエンジニアの学位取って起業して、中でも成功して投資家とかになった人たちが、その後台湾に戻ってくるんですね。

 「台湾のシリコンバレー」と呼ばれる新竹でまた新しい企業をやったり、エンジェル投資家になったりして、ベンチャーを育てていく。でもその間も、当然シリコンバレーと台湾の間を何度も往復するんですよ。まず人が動いているんですね。

 人が動かないと結局どうなるか。ー「暗黙知やインフォーマルな知が動かないんです。暗黙知は、言葉では伝わらない、人と人が一緒にいないと伝わらない知です。インフォーマルな情報は、会議では出てこないような噂話とかです。よく「グローバル化・IT化で情報はネットでどこでもつながって、世界中どこでも同じように情報が取れるようになった」というけど、それは嘘だと思います。

 ネットがあるからどこでもビジネスできるといいながら、現実にはシリコンバレーにもっと人が集積しているわけですよね。しかもその多くはネット企業(笑)。世界中に情報を発信しているはずの人たちが、経営はシリコンバレーというバカみたいに「狭いところ」に集まっている。

 なぜかというと、ネットが増えたから、大切な情報は逆にFace to Faceでないと伝わらなくなったんです。本当に大事な情報って、流さないじゃないですか。一緒に昼飯や晩飯食べたりして、「ちょっとこういう話があるんだけどさ」って伝わる。みんなそういうインフォーマルな知・暗黙知を求めてシリコンバレーにこぞって行っていて、孫さんも三木谷さんも1年のうち半分はそこにいるわけです。

 台湾はそうやって70年代から少しずつ人が動いていって、その厚みがだんだんに出てきた。台湾の新竹とシリコンバレーの間で、「あの会社、あんないい開発してたのに、途中で頓挫したらしいよ」「あいつ、今後あの会社辞めるみたいよ」みたいなインフォーマルな暗黙知の情報が飛ぶ。対して日本は、そういう人の動きの厚みが圧倒的に足りないんです。

偶然のつながりから、直感ですぐ動く

話を戻すと、日本でも横のつながりをつくる動きが出ていると聞いた頃、実はパナソニックでも「One Panasonic」というのがあるという話を聞いて、とても面白いなと注目していたんです。

そしてしばらくして濱松君に「始動」で会い、「あ、あなたが・・」と。ちょうどOne JAPANの直前だったので、そういう縁でこのように関わることになった。濱松君はやっぱり巻き込み方がすごいですよね。

濱松:その始動を受けようと思ったのも、同じシェアハウスで仲良くしてくださっている方が紹介してくれたご縁でした。そう考えると、僕が山本君とつながったのも、NTT東日本の沼田君のイベントでしたね。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

山本:そうですね。私がそのイベントの濱松さんの講演でOne Panasonicの話を聞いて、これだ!と。私はNTTでも最初は宮城の支店にいて、なかなか情報が入ってこないのと、上の人とのつながりも全くないのが、本当に悔しかった。そんな中One Panasonicの話を聞いて、NTTにもそういう集まりが必要だと思って始めたのがきっかけですね。

濱松:その場で、「NTTでもつくります!」って宣言してくれて。

山本:翌日にはめどを付けて仲間を集めて実践しました。

入山:早いですね(笑)。

大川:僕もちゑやというリクルート系の話を聞いて刺激を受けた翌週に、「秘密結社 わるだ組」を富士ゼロックスで立ち上げました。メンバーはスピード感を持ってギュッとやっちゃう人たちが多くて。「ノータイムポチリ」のような、ようは「考えずに動いてしまえ」みたいなことを直感的に言い続けていたんですけど・・。

不確実な世の中で重要になっていくこと

入山:なるほど。いや、実はこの間の講演では唯一しなかった話があったんです。時間があれ以上延びてはと思って(笑)。唯一しなかったけど、すごく大事な考え方だと思っている。それは、「センスメイキング理論」といいます。ハーバードビジネスレビューの連載でも一度書いてすごい反響があり、読者投票のダントツ一位だったものです。

とても有名な実話なのですが。昔ハンガリーの軍隊がアルプスの雪山で猛吹雪に襲われて遭難したんです。どこに向かえばいいかもわからず、テントの中でみんな死を覚悟しました。

その時にある隊員が、ポケットに地図があったことに気づいた。それを見た隊員たちは「俺たち生き残れるかもしれない」と、なんとか落ち着きを取り戻して。この地図を頼りに、傾斜や風の向きなどを見ながら進んで行き、ついに下山することができた。
生きて戻れたことを喜びながら、自分たちを助けてくれた地図をもう一度見たら、それはアルプスではなくピレネーの地図だった・・。

どういうことか。これからの時代って今まで以上に「不確実性」が高いじゃないですか。雪山で遭難ってその究極なわけですよ。そういう本当に危機的で右も左もわからない状況になればなっていくほど、落ち着いて客観的に分析するなんて出来なくなる。ビジネスでも今後さらに不確実性が高い時代になってくると、正確性というものが意味をなさなくなってくるわけです

日本はいまだに経営企画部とかが綿密な市場予測を一生懸命やって、事業部が儲かりそうなことを分析してたりするわけですけど。これだけ変化が早い時代に、そういうことをやってる時間があるのかそもそもそれって本当に正確なのっていう話があるわけですね。

むしろ重要になってくるのは、正確性ではなくセンスメイキング」だといわれている。正確性よりも「納得性。正確な答えは誰もわからないのだけど、「きっとこうなる」と思いっきり主観で言って、そこにストーリーを作って、それに納得して共感してくれる人たちを巻き込んで。それで前に進んでいくっていうことがとても重要なんです。

大川:濱松君がやっているようなこと?

入山:まさにそうですね。もう一つ有名な逸話があって。ホンダがオートバイで初めアメリカに入っていった時に、「スーパーカブで大成功しましたね。ボストンコンサルティングの分析によると、ホンダは典型的なマイケルポーターの差別化を用いて攻める、長期的視点に立った素晴らしい戦略をとったと。

その後、スタンフォードのリチャード・パスカル教授がホンダの幹部に聞きに行ったそうなんです。そうしたら、戦略ではなく「とりあえず勢いで現場に行っちゃいました」というのが実情だった。アメリカは大型バイクが多いから、最初はホンダもそこで勝負して全然売れなかったんです。ところがある日、街中を小型バイクで走るお兄ちゃんらを見て、「あ、これうちで作れるやつだな」って直感した。それを売ったらバカ売れしたんですよね。それがスーパーカブ。

主観でまず第一歩を踏み出せ

これからの不確実な世の中では、じーっと正確な予測を立ててなんて時間もなければ、正解もわからない。それよりまずは行動することで環境に働きかけることが重要なんです。知らない森に入る時に、中が分からないからドローンで正確に分析して・・とかやってると日が暮れちゃうわけです。ではなく、とりあえず森に入っちゃえと。入れば木々のざわめきとか風の動きとかで、森のことが徐々に肌感覚でわかってきます。それと同じです。

そしてそのdriving force(牽引力)となる人は、その「第一歩を踏み出す人」なわけです。「確実です」とは言えないけど、こっち側に進んだらすごい面白そうだし、納得できるストーリーがあって、きっと社会にも貢献できるからみんなで行ってみようぜって。納得性をもって巻き込んでいくことが重要なんですね。

さっきの話も、地図がピレネーかアルプスかっていう正確性はどうでもいいんです。これを頼りにすれば俺たち助かるかもしれないっていうストーリーの方がよっぽど重要なんですね。それに隊員全員が納得して一歩踏み出したから、結果的にはめちゃくちゃな地図だったわけですけど、風の動きとか地形とかを読みながら下山できたんです。それがセンスメイキング理論。

これからの時代にものすごく重要なことで、まず一歩を踏み出す必要がある日本の大企業の場合はその一歩を踏み出せないわけです。「お前ちゃんとそれは予測をしたのか」とか、「市場規模はどうなんだ」とか。「ちゃんとフィナンシャルシミュレーションやったのか」とかいう話になるわけですよ。

大川:最近まさにそこが悩みなんです。予測派の人を納得させるために、仕方なく数字を作ってみたりしてしまい、そのやり方で本当にいいのかって悩んでたりします。そういう人たちにも共感してもらえるような、他のアプローチはないのでしょうか?

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

ストーリーテリングは、10兆円をも引き出す

入山先生世界で今勝ってる人たちはみんなセンスメイキングができています。わかりやすいのが孫正義さん。この前サウジの富豪から10兆円引き出してるんですよ。常識で考えたらありえない。トラッキングレコードがすごいとかいうけど、10兆円ってそんなレベルの話ではない。これは、ストーリーテリングの天才である孫さんの巻き込み力の最たるものだと思います。

大川さんの質問に対しての僕の答えは、別の手を考えるよりも、ストーリーで語る部分の納得度とか、情熱の伝え方とかがまだ足りないのかもしれない。

僕もお会いしてすごいなと思っている経営者はみんなストーリーテリングの天才。みんな主観で生きている。経営学の研究でも、アメリカの経営者のストーリーテリング能力を解析し、それが高い方が圧倒的に資金を引き出せることが統計的にもわかってきています。

大川:確かにストーリーで引き出すというのは、トップは結構好きなんですよね。でもその下の中間層が結局、「説明ができない、説明ができない」って・・。

入山先生:まあそうね。中間層ね。

大川:「お前の言うことはわかるけど、こういう数字とか全部用意しないと会社は動かねえぞ」って。まあ会社の力学を全て知っている人たちなので。でもそういうのも含めて変えていかなきゃなんだけど、どうやればいいのかがすごく悩ましいというか。

トップを巻き込み、地動説へと動かす

入山先生:難しいですよね。ひとつ言えるのは、企業って結局トップだということ。僕が大企業でいいなって思っているところって正直多くないんですけど、その中でも素晴らしいなって思ってるのは、ファミリービジネスを除くと三越伊勢丹の大西さん。現場のことを一番よく知っているのは若手だとわかっていて、なんとかつながろうと頑張っている。

またITセクターのトップに中村さんっていうチャラ男を抜擢している。最初はITを入れることを一番反対してたのが、中村さんで、「じゃあお前やれ」ってトップに据えた。中村さんはパソコンもろくに触らないような人だったらしいけど、今はIT担当やらせてるっていう。いい会社は今どこもそうですが、すごい勢いでトップが現場に降りてくる。その意味では、大西さんが任期途中で辞任されることになったのは、とても残念ですね。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

中間層の問題。僕も本当にこれが最大の壁だといつも思っている一番わかりやすいのはやっぱり「トップ」なんですよ。今現場にいらっしゃる皆さんが、何らかの形でトップをうまく巻き込む。感度のいいトップなら振り向いてくれるので。

先ほどの大西さんやブラザーの小池さん、ダイキンの井上さんなんかがそうではないでしょうか。あとJR九州の唐池さんとか。今企業価値を上げている人たちって、やっぱり現場や若手とつながることができているんですよね。もちろん中間層の反発はあるので、そこの根回しが重要なんだけど。

でもそもそも、そういう会社が潰れないのも問題だとも思うんです。日本の大企業のように中間層が詰まっているのは、これからの時代についていけない経営なので、本当はそういう会社が株主から叩かれて、潰れるというようなことが起きないと。

あとはそういうところから、人材が逃げ出さないというところ。GEがひたすら「ビジョン経営」って言っている理由は単純で、いいビジョンを持って若手の意見を聞いてやっていかないと、いい人材がリテンションできないんですよね。でも日本だとリテンションできちゃっているから変革が難しい。かといって、皆さんに辞めろというわけではなく。そんな中でどう変革していくかが、One JAPANの考えるべきひとつのミッションなんですよ。

(後編につづく)